今回は、『少女終末旅行』(つくみず著)(新潮社)の感想レビュー。
重要なネタバレはなし。一部引用のみにとどめる。
原作はwebサイト『くらげバンチ』にて、2014年2月21日から2018年1月12日まで連載された漫画作品。
2017年10月よりアニメ化もされた。私はアニメからこの作品に触れた。
視聴したきっかけとしては、amazonprimeで面白そうなアニメを探しているときに「少女終末旅行」というタイトルに惹かれたからだ。
「少女」ときて「終末」ときて「旅行」とくる。
「少女が終末を旅行する?」「終末なのに旅行?」
タイトルだけでどんな作品なのか想像がふくらむ。
Amazonプライム・ビデオの評価は高く、私が視聴する時点で星4.5だった。
さらに、2019年7月27日、優秀なSF作品に贈られる星雲賞のコミック部門を受賞している。
きっと面白いはずだ。これは見るしかないと思った。
視聴した結果、私はいつの間にか原作である漫画全6巻をまとめ買いしていた。
そんな「少女終末旅行」が一体どういった作品で、どんな魅力があるかを語りたい。
目次
少女終末旅行のあらすじ
繁栄と栄華を極めた人間たちの文明が崩壊してから長い年月が過ぎた。
生き物のほとんどが死に絶え、全てが終わってしまった世界。
残されたのは廃墟となった巨大都市と朽ち果てた機械だけ。
いつ世界は終わってしまったのか、なぜ世界は終わってしまったのか、 そんなことを疑問にさえ思わなくなった終わりの世界で、 ふたりぼっちになってしまった少女、チトとユーリ。
ふたりは今日も延々と続く廃墟の中を、 愛車ケッテンクラートに乗って、あてもなく彷徨う。
全てが終わりを迎えた世界を舞台に、 ふたりの少女が旅をする終末ファンタジーが今、幕を開ける。
人類はほぼ滅んでしまった世界。
文明は過去のものとなり、私達の世界では当たり前である文化・技術も少女達にとっては新鮮で珍しいものとなっている。
そんな荒廃した世界で、少女ふたりは食糧を求め旅をする。
廃墟となった巨大階層型都市の上層をただただ目指す。そこに何があるのかも分からない。
あてどない答えのない旅をする。
あらすじだけを見ると本当に絶望的な状況だ。
しかし、少女達からはなぜか悲壮感をあまり感じない。
退廃した世界なのに、どこか「のほほん」とした雰囲気まで感じるのだ。
旅をするふたりからは、いわゆる「日常もの」のようなゆるさが出ている。
つまり、「終末もの」+「日常もの」=「少女終末旅行」といえる。
キャラクターデザインも「日常もの」のそれに近い。
登場人物の紹介
少女終末旅行に登場する少女ふたりの紹介。チトとユーリ。
凸凹コンビのようで、実はお互いにお互いを必要としているナイスコンビだ。
チト
© つくみず・新潮社/「少女終末旅行」製作委員会
冷静で理知的な性格。本を集めたり日記を書くのを趣味にしている。
移動に使うケッテンクラートの運転や修理は彼女が担当。
黒髪おさげな女の子チト。
真面目で堅実。ちょっぴり怖がり。
相方のユーリに対してツンツンしている。でも実はユーリのことが大好き。
ユーリの傍若無人ぶりに対して怒っても結局すぐに許す。根が優しい。
人並みの不安や疑問を持っており、読者や視聴者はチトに感情移入しやすい。
漫画のあとがきを読むと、作者の悩みや不安、疑問をチトに投影しているのではないかと感じた。
ユーリ
© つくみず・新潮社/「少女終末旅行」製作委員会
楽観的すぎる性格で、食べることが大好き。細かなことはチトに任せっきりだが、銃の扱いや体を使った作業は得意。
金髪アホ毛の女の子ユーリ。
明るく活発で頭を使うのは苦手。食べることが大好き。
たまに突拍子もないことを言う。しかし、それが本質を付いた、するどい格言だったりする。
チトが作者自身を投影していると仮定するならば、ユーリは作者の理想が投影されている気がする。
日々を楽しく、出来事ひとつひとつに対してワクワクしている。
生きていること自体に楽しさを見出している。
ただ、生きることが楽しい。それが一番の理想だと思う。
少女終末旅行の好きな場面
© つくみず・新潮社/「少女終末旅行」製作委員会
チトとユーリがある目的地に向かって歩いていたら、目的地まで案内してくれる矢印を見つける。
そこで、人生にも目印があればいいのにとチトは言う。
それに対して、つまんないからあっちの穴に入ってみようとユーリは言う。
このやりとりはふたりの性格がよく表れている場面だ。
チトは堅実に着実に無茶なこと、危険なことはせず安定性を好んでいる。
それに対してユーリは刺激を求めている。 冒険心のあふれるユーリの性格が出ている。
これは人生の進路に対する比喩表現だと思う。
人生に矢印があって、その通りに進んでいけば幸せな人生が送れる。
であれば、その矢印のとおり進むのが楽だろう。
私もそちらを選ぶ。 チト派だ。チトに共感した。
ただ、ユーリの言うこともわからんでもない。が、やはり怖さが勝つ。
もし知らない道に入って迷ったらどうしよう。行き止まりで徒労に終わったらどうしよう。
不安がどんどんよぎる。
でも、もしかしたら出口への近道かもしれない。もっと楽な道かもしれない。
プラス思考、楽観的な考え方ができる人は、こう考えるかもしれない。
そんな人生の生き方、指標を示唆するような場面だ。
少女終末旅行の印象的なセリフ
© つくみず・新潮社/「少女終末旅行」製作委員会
おもにユーリから放たれる名言(迷言)・格言の数々は印象的だ。特に印象に残ったものを挙げる。
絶望となかよくなろうよ
ユーリは呑気に言うのである。なかよくなれば怖くない。
理屈なのか、それとも何も考えないで 口から出たセリフなのか。
そう自分に言い聞かせているのかは私には分かりかねる。
そこがユーリの魅力だ。 計り知れない何かがユーリにはある。
訳の分からないことを喋っている楽観主義者か、全てを悟った末での哲学者と取るかは読者や視聴者の考え方次第である。
死ぬのが怖くて生きてられるか
これも印象に残ったセリフだ。
死ぬのが怖くて、ただ死を回避しよう、遠ざけようとし、 生きることをおざなりにした人生はつまらない。
生きている以上、なにかしらの危険はある。
でも、それにビビッて何もしなければ、本当に生きているとは言えない。
発言したユーリ本人からはそのような確固たる信念はちっとも感じさせないが、私はユーリから強い意思を感じ取った。
意味なんかなくてもさ、たまにはいいことあるよ
何事に対しても、意味や目的を求める人には刺さる言葉ではないだろうか。
意味や目的は失ってしまうと、途端に人はモロくなってしまう。
意味なんかなくてもいい。ただ感じること。
それだけで十分なのだ。
意味や目的なんて後付けだ。
ありもしない答えに執着して、たまにある「いいこと」を見落とさないようにしたいものだ。
何もない終末世界だからこそ、この言葉は深く深く響く。
少女終末旅行はこんな人におすすめ
© つくみず・新潮社/「少女終末旅行」製作委員会
退廃した世界に興味がある人はオススメ。
また、その退廃世界を背景に、哲学的な問いがたびたび出てくるので、そういったことに関心がある人もオススメ。
この作品はバトル漫画ではない。感情の起伏が激しい作品でもない。
とても静かな作品だ。静かで純粋な日常を映し出している。
決して万人受けするような作品ではない。見る人が見たら退屈だろう。
しかし、彼女らが置かれた状況において、日常をしっかりと生きている光景を見ると、日々の生活を改めてしまうような強いメッセージ性がある。
この作品では、ふたりがおいしそうにレーション(固形食品)を食べているシーンがちょくちょく出てくる。
そのシーンを見ると、毎日の食事をただ単にこなしている現在に、違和感を覚えてしまうのである。
この作品を見た後、死なないためにただ生きる毎日に変化を加えてみたくなった。
漠然と日々を過ごすのではなく、起こる出来事ひとつひとつをかみしめようと思った。
些細なことが素晴らしいことなのだ。それを見過ごしていた。それに気づかせてくれた作品だった。
アニメは原作6巻中、4巻まで映像化された。
もしアニメを見て面白いと思ったら、漫画を買って、彼女たちの旅を最後まで見届けてほしい。
あなたの心に『少女終末旅行』はきっと何かを残すはずだ。
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